知られざる蕎麦の里、宮古
福島県喜多方市の名物と言えば、圧倒的に多くの人はラーメンを思い浮かべるのではないだろうか。
喜多方ラーメンを名乗る店は全国にあるだけでなく、東京からその気になれば日帰りできるので直接本場の喜多方ラーメンを食べるために訪れる人も珍しくないくらい、その人気は高い。
しかし、同じ地域にもうひとつの名物があることはあまり知られていないのではないだろうか。
それは「宮古蕎麦」だ。
宮古は喜多方市中心部から20kmほど北西にある山あいの村で、喜多方市ふるさと振興株式会社山都事業所のサイトによれば、この地は標高が高く米作に向かないため蕎麦を常食としていたが、越後裏街道筋にあたることから行商などで逗留する人々にもふるまっていたという。
戦後になって県道工事などが盛んになると工事関係者や県職員などがやって来て農家に頼んで蕎麦を打ってもらい食べるのが盛んになり、それが発展して店を構えるようになったらしい。
喜多方ラーメンの陰に隠れているが、一部の蕎麦通の間では秘湯ならぬ「秘蕎麦」と呼ばれ絶賛されているとのことだ。
山あいの山村にある「かわまえ」
「宮古蕎麦」はおそらく宮古川沿いで作った蕎麦の総称であり、店が一番集中しているのは宮古川と阿賀川が合流する山都町だ。
そのため「山都蕎麦」という別名も持っている。
喜多方から車で20分ほどでアクセスできる利便性からそうなっているのだろうが、そこからさらにずっと国道459号線で川をさかのぼった山の中にある蓬莱地区が「宮古集落地」と呼ばれる本場の中の本場と言える。
この集落には30軒ほどの家があるようだが、そのうちの8軒が客間座敷を開放して蕎麦店を営業しているようで、国道459号線沿いに看板を出している。
ここで紹介する「かわまえ」は、その中でも一番大きな店だと思う。
東京から直接来る場合は、磐越自動車道の会津坂下インターチェンジで降りて30~40分ほどだ。
時期によっては途中の道沿いは花が咲いた蕎麦畑が広がっていて気分が盛り上がる。
TEL:0120-83-2588(予約)
WEBSITE:http://kawamae.jp/
雰囲気たっぷりの店内、メニューは3種類のみ
店は、非常に大きな民家をそのまま使っているようだ。
玄関を入ったところで靴を脱ぐのだが、正面には囲炉裏がある。
その右手が調理場、左手に客席がある。
2階まで吹き抜け風の非常に天井が高い大広間で、壁には絵の大きな額や柱時計、ご先祖様の遺影が脇に並んだ神棚など暮らしぶりが垣間見える。
席につくと店員さんがメニューを持って来てくれるが、この店は「懐石そば」と名乗っており、メインは懐石そばコースになっている。
料理7品で2,500円、10品3,000円、13品3,500円の3種類が用意されている。
自分が行った時にはこのほかに「イワナ付き蕎麦」と「山菜の天ぷら付き蕎麦」という2種類の手書きの品書きが出された。
こちらはおそらくその時々で変わるのではないだろうか。
会津の郷土料理をひと通り試してみたい、というのであれば懐石蕎麦コースもいいと思うが、下記の通り副菜があらかじめテーブルの上に用意されているし、メインの蕎麦は食べ放題なので、個人的には懐石コースでなくてもいい気がする。
自分は「イワナ付き蕎麦」をオーダーした。
蕎麦の前に刺身こんにゃくを楽しもう
テーブルの上には、あらかじめ漬け物、のっぺとほぼ同じ薄味の煮物、刺身こんにゃくが置かれているのでそれをつまみながら蕎麦が来るのを待とう。
宮古は地域区分的には会津になるが、新潟と接しておりのっぺと同じものが出てくるのが興味深い。
また、刺身こんにゃくは絶品なのでぜひ味わってほしい。
東京で売っている、あるいは居酒屋で食べられるものとはまったく異なり、非常に柔らかくプルプルで箸でつかみ上げるとビヨ~ンと伸びるような感じだ。
こんにゃくなので味そのものはそれほどないが、口の中に入れると吸いついて来るようなヒンヤリとした食感で楽しくなってしまう。
お土産としても店頭で売っているので、自分は思わず購入してしまった。
お椀に盛られる蕎麦は食べ放題
宮古蕎麦の特徴は、蕎麦の実の生産から打って客への提供までをすべて地元で行っていることだ。
蕎麦は宮古の在来種を栽培し、製粉の歩留り70%以内を守ってつなぎを一切使わず飯豊山の万年雪からの伏流水を使った湯ごね水ごねで滑らかさとコシの強さを引き出すという。
別名「水蕎麦」と言われており、つゆを使わず水に浸しただけの蕎麦を食べるのが本当のスタイルらしいが、ここではつゆも用意されている。
蕎麦は小さなお椀に入れて出される。
自分が行ったのは下の山都の街で「新蕎麦祭り」が行われてる最中の新蕎麦のシーズン真っただ中であったが、少し白っぽい蕎麦は香りが高くまさに新蕎麦という感じ。
思ったよりも柔らかめでのどごしもよく、スルスルッと胃袋に収まっていく感じだ。
蕎麦はおかわりし放題で、店員さんが頻繁に声をかけてくれる。
小さなお椀に入っているので何となくわんこそばを思い起こさせるが、1杯に入っている量はずっと多いので男性でも3杯も食べればお腹がいっぱいになるのではないだろうか。
イワナ付き蕎麦を注文したのだが、それとはさらに山菜やキノコの天ぷらもついてきた。
イワナはかなり大ぶりで濃い目の味の田楽風タレが塗られていたほか、山菜とキノコの天ぷらもボリュームたっぷりで、蕎麦を徹底的に楽しみたい人にとっては量が多すぎかもしれない。
天ぷら自体は田舎風、とでもいうのだろうか割とどっしりとした感じで、自分には余計にボリューミーだった。
行くなら予約を
この地区の蕎麦店は基本的に家族経営だからか週のうち2日のみ営業、客が1回転しかせずあっという間に売り切れ……などかなりハードルが高いところが多いのだが、「かわまえ」は村一番の大きな店なので、そのようなことはないようだ。
店の前には「ご予約なしで食べられます」という看板が出ているが、店のサイトを見ると「予約制となっておりますが、当日の朝の予約もお受けいたします」と書かれているので予約を入れたほうが間違いないと思う。
実際、自分が行った時にもほとんどが予約済の客だった。
少し無理をすれば東京から日帰りも可能だが、せっかくなら1泊で訪れるのがおすすめだ。
喜多方や会津若松に泊まることももちろん可能だが、山形や新潟も車で2時間程度でアクセス可能なので、選択肢は幅広い。
東京からわざわざ食べに行く価値大の店だと思う。
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